J.K.ローリング 『ハリー・ポッターと賢者の石』 静山社
昔一度読んだきりだけど最近の再燃を見ていたら読みたくなった。
記憶通りに面白い、優良な児童書。
居場所のない子供がみいだされて居場所をみつける王道の一巻は確実に安心して読める。
自分が大人になって、著者のLGBTフレンドリーな姿勢を知った上で読むと、昔は気づかなかったところに目がいく。
明確な悪役の差別だけでなく、いい人のもつ偏見もそこここに仕込まれている。
たとえばハリーたちの友人のネビルは魔法力の弱い「おちこぼれ」。
ネビルのおじさんは、このこをまともにしてやろうという愛情で一所懸命ネビルを恐ろしい目に合わせる。
善良なハグリットや公平なマクゴナガル先生は目の前の子を差別することはない。でも一般マグル全体には悪い印象を持っている。
好きにならずにいられない素敵なウィーズリー家さえ、魔法使いじゃない親類を話題にしない。
ハリーのおばさんが妹をなかったことにしているのと同じように。
ハリーを親切に受け入れるロンの家族と、ハリーを邪険にする叔母一家は、ハリーを敵とみなすか身内とみなすかの違いがあるだけで本質は鏡に映したようにそっくりだ。
どちらもその世界のマジョリティで、家族や「まともな」人には親切で優しい。
魔法使い一家で育ったロンは、両親が魔法使いであることを前提にマグル出身のハーマイオニーに話しかける。
異性愛者がレズビアンについ「あなたの彼氏は」と話しかけるみたいに。
雑魚キャラ代表みたいなダーズリー家も自分たちの論理を持っている。
おばさんが魔女になった妹を嫌うのはきょうだい児的理由かもしれない。
おじさんはまともじゃないものを憎むけれど「あんな妹」を持つ妻をさげすまない。
「こっち側」から見れば愚かで間違っているけれど、おじさんは敵(と見なした集団)を攻撃することで家族を守ろうとしている。
自分とちがった人たちをやたらに攻撃してくる人たちは、現実でもこんな感じの「まともな人」がけっこういる。
登場人物たちはそれぞれが自分と違う種類の人たちと知り合って、ますます嫌いになったり、わかりあったり、折り合ったりする。
解決することばかりじゃないけれど、理不尽なこともあらがい続ければ少しずつ変えていける。
児童書でさりげなくここまで書けるのを、改めてすごいと思った。
- 作者: J.K.ローリング,J.K.Rowling,松岡佑子
- 出版社/メーカー: 静山社
- 発売日: 1999/12/01
- メディア: ハードカバー
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シリーズ感想
ちょこっと『からのゆりかご』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4823108760を連想した。
おまえがやったことはヴォルデモートが再び権力を手にするのを遅らせただけかもしれん。そして次に誰かがまた、一見勝ち目のない戦いをしなくてはならないのかもしれん。しかし、そうやって彼のねらいが何度も何度もくじかれ、遅れれば……そう、彼は二度と権力を取り戻すことができなくなるかもしれん」p438-439
大きなゆがみと闘い続ける不断の努力は、微力だけど無駄じゃない。
- 作者: マーガレットハンフリーズ,Margaret Humphreys,都留信夫,都留敬子
- 出版社/メーカー: 近代文藝社
- 発売日: 2012/02/10
- メディア: 単行本
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優良な児童書だけにきれいじゃない翻訳が残念。
「エンエンと」(延々と)、出目金(目の形容)、口調のブレなどが気になる。
普段本を手に取らないような子でも読もうとする本だから、きれいな文章にしてほしかった。