馬脚チラリズム

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セクマイ的感想文置き場。本とか本じゃないものとか。

桐野夏生『グロテスク』 Aセク読み

本を読むとき、気に入ったフレーズをメモしています。

あとで思い出すよすがになるし、引用にも便利。

どこが印象に残るかで、自分の今の状態がわかったりもします。

で、そんな気になる言葉たちをながめていました。

桐野夏生『グロテスク』の言葉です。 まとめてみると気づく。

この本アセクシャルっぽい。

 

グロテスク〈上〉 (文春文庫)

グロテスク〈上〉 (文春文庫)

 
グロテスク〈下〉 (文春文庫)

グロテスク〈下〉 (文春文庫)

 

  

あらすじを見るとAセクらしさのかけらもないですが 登場人物を見ているとなんだかそんな感じがするのです。

セックスするかどうかじゃなくて、恋愛を理解できるか あるいは恋愛関係を築けるかという点で、アセクシャルっぽい。

主な人物の誰一人として愛に生きていない。

あ、ミツルは違うかな?(ジョンソンや木島(親)は単なる所有欲だからまた違う)。

 

ともかく「セックスは好きだけど男は嫌い」なユリコも その逆の佐藤和恵も ぶざまなマネをしたくないユリコの姉も 恋愛を楽しみつつ生きている人たちとは違っている。

ユリコの姉はあえて遠ざけているともいえるけれど ユリコは恋愛の概念自体が理解できていない。

 

私の体は私のもので、誰のものでもないはずだ。 私を愛そうとする人間は、 私の体まで支配しなくては気が済まないのだろうか。 愛がそんなに不自由なものなら、私は一生知らなくてもいい。

 

上はユリコのセリフ(心情)です。

「売春は君の心や体や、君のことを好きな人を傷つける」 とかなんとか言った教師に対する感想なんですが、ここなんかすごくそんな感じ。

 

許せないよりも、もっと悪いのです。 わたしは恋愛をする人間たちを裏切り者だと憎んでいるのですから。

 

これは姉のセリフ。ここはものすごく共感してしまう。

恋愛至上主義の世界に嫌気がさしているから 同類だと思っていた人たちが手のひらを返したように恋愛を始めると 裏切られた気分になる。

置いていかれる焦りがあるのも確かなんだけど それ以上に、信じていたのにとか、結局お前もそれかよ、という敗北感。

恋人ができた友人に負けたわけじゃなくて やっぱりこんな風に生まれてしまったのは自分だけなんだという 世界に対する敗北感とでもいいましょうか。

まわり中が本格的な恋愛 (思うだけの片思いではなく関係性がつくられる恋愛)を始める頃から、 そういう思いが強くなるんだよね。

 

佐藤和恵は恋心を抱いてはいるけれど、あれは一方的なものだからできたこと。

実際に関係が始まってしまっても思いつづけていられただろうか。

築いた関係を維持できただろうか。

そもそも欲しかったのは「理想の木島」であって 「現実の木島」じゃないんじゃないか。

 

恋愛って思い込みなんだろうと思う。

この人はステキだとか、この人が好きだとか、縁だとか運命だとか。

そんなものを信じて、思い込みをつらぬける人が恋愛できるんだと思う。

だから半端に頭が良かったり、カッコつけたり 人より早く色んなものが見えちゃったりすると、思い込む能力に欠けちゃうんだろうな。

Aセクにはガーっと思い込んで、カーっと熱くなって、バーっと攻めていくような そういう能力が欠けてるような気がする。

うんまあ、思い込みの激しいAセクだっているわけだけど。